知佳の美貌録「影の実力者」 久美あっての高原ホテル
知佳の美貌録「影の実力者」
事務職であるはずの久美だが、置かれた立場上 事務職にとどまってはおられなかった。例えばホテルの老朽化、
支配人や経営者は見て見ぬふりをした。
破裂し、廊下に滝のように水道水が降ってくるホテル。
修理箇所を限定しようにも、どこから手を付けていいやら見当もつかない。
第一、誰に頼みようもなかった。
修理費など一切納めようとしないホテルに、喜んで修理に来る業者などバブル期のこの時代にいない。
それを、久美は手練手管で、
おまけに手土産まで持参させ「修理をさせていただいた」と業者に言わしめさせたのである。
土産物品も、倒産前のホテルならでは 原則買取が条件だった。
それを久美は「置かせてあげる」立場に変えた。
「会いたかったら、相談に乗ってほしかったら持ってらっしゃい」と言って釣った。
お客様のおもてなしにつけてもそうだった。
接客のほとんどを学生のバイトに頼っていたホテル。
どんな態度で働いても、日給は決まりきっていた。
久美はそれを実力主義に変えた。
ある年の夏、アルバイトに来ていた学生たちを見て、
「今後の給金は働き次第で変更します」と言い切った。
給金のことに口を出せるのは、
勿論経営者と支配人と決まっていた。
それを、敢えて久美が口出しした。
そうでもしなければ、いよいよ傾いたホテルからむしり取るだけむしり取ってサッサと逃げられてしまうからだった。
自己保身に走る支配人では、もうこういったことに口出しする実力はなかった。
下手な差配をすれば、それだけで既存の従業員たちはクモの子を散らすように逃げてしまっていただろう。
それをなんとか繫ぎ止めていたのが久美だと誰もが認めていた。
アルバイト学生の中で、●〇高校のマドンナと呼ばれる女学生がいた。
久美の目から見ても特段に頭のキレが良かった秀麗な少女。
その、頭脳明晰な女学生を捕まえ「特別給を払います」と全員の前で言い切った。
「仕事ぶりをずっとみさせていただいた」
それによれば、他に先立って働いていたのは彼女、
「働いたものにはそれなりの報酬、働かなかったものには昇給の必要ないでしょう?」
日給750円均一だったものを、彼女は一気に1,000円に上げ、それを全員の前で公表した。
「給料を上げてもらいたかったら、彼女を見習いなさい!」
逆らうものなどなかった。
古参の従業員も含め、久美が指摘した通りだったからだ。
頭脳明晰だけじゃなく、礼儀作法も申し分なかった。
「そうでしょうね。マドンナと1ヶ月一緒に働けるだけでもうれしいはずだもんね」
久美が認めるだけのことはあった。
一旦久美が女学生に命じると、周囲の男子学生は女学生に引きずられるかの如く後ろに従った。
どの席の、どの客の席が空きそうか、
女学生は素早く判断し対応に当たってくれた。
面白いように客が流れた。
しかも、評判は上々だった。
久美の采配にフロントマンはもちろんのこと、フロアーで喫茶を開く老婦人も甚く気に入ってくれた。
「もし良かったら、来年も来てくれない?」
久美の願いもむなしく、受験勉強と進学のため、その後一切女学生は来てくれなかった。
「ご期待に沿えなくて...」待つ久美に、こう返答が来た。
出るのはため息だけだった。
疲れ果て、事務所に落ち着くや否やコーヒーの無料サービスを行う喫茶の経営者の老婦人。
「気を使ってくれなくてもいいのに...」
「何を言うんだい!あの支配人ったら、肝心な時になるとどこに隠れたやら顔も出しやしないんだから!」
売り上げが伸びない喫茶を、いつやめようか、いつやめようかと思いながら、ここまで頑張ってこれたのは久美ちゃんのお蔭だと 二言目にはほめてくれた。
「あんたが来なかったら、このホテルはとうにバンザイしてたよ」
役員報酬を銀行・町からの恫喝を支配人に代わって暗に伝え、頑として配当しなかったこと。
業者への支払いを半年・一年手形を切って、先延ばしにし続けたこと。
それら一切を「たかがアルバイト」の久美がやってのけた。
「陰の実力者」 老婦人の偽らざる言葉だった。

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テーマ : 女衒の家に生まれ・・・ 高原ホテル
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- 2019-02-23 :
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